同じ細胞塊にいることは通信の証拠になるか。CCI-seqを再集計する

Daiki Kumakura · 2026-11-06 · Blog · 1.0

マウス腎臓の公開注釈から共存塊数とFrequencyを再計算する。希少なPST–B細胞の実数、反復別の母数、帰無と塊サイズによる濃縮比の違いを調べ、近接と因果的な通信を分ける。

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背景と目的

リガンドと受容体のRNAが発現していれば、その細胞同士が通信しているのだろうか。発現は候補を作る情報だが、二つの細胞が近くにいるか、その分子が働いたかまでは直接測っていない。近接情報を追加すると、何が分かるようになるのか。

2026年10月5日公開の(1)は、細胞塊を組合せインデックスで標識し、その後に単一細胞の転写状態と塊の由来を読む。発現から候補を推論するだけでなく、同じ塊に由来するという別の観測を得る方法である。

本記事では、公開されたマウス腎臓の注釈とCell-IDを独自に再集計した。原著の頻度表を照合したうえで、細胞塊の実数、細胞数を考慮した頻度、反復別の母数を分ける。近接の観測が増えたことと、因果的な通信まで示せたことを混同しない。

同じ塊の全ペアが直接触れているとは限らない

CCI-seqでは、部分的な解離後の細胞塊にインデックスを付け、同じCell-IDの細胞を同じ塊に由来すると判定する。これは組織中の近接関係を読む観測だが、細胞塊の中の全ペアが直接接触していることまでは示さない。間に別の細胞がある場合も含み得る。((1))

回収できた細胞数も、元の物理的な塊の大きさとは限らない。RNAやインデックスのQCで一部の細胞が残らなければ、大きな塊から二つだけを観測することもあり得る。「2細胞の塊だけに絞ったから直接接触が確定する」とは言えない。

一方、発現由来のリガンド・受容体スコアには、分子の組合せを候補にできる利点がある。近接情報は位置関係、発現は分子の候補を測る。画像での隣接確認や、分子を阻害したときの応答まで加われば、さらに異なる証拠になる。本記事は発現由来のネットワークや画像を独立に再解析したものではない。

11,519細胞と頻度の分母5,731細胞を分ける

(2)にある腎臓のresult.txtから、元のQC判定が1の11,519細胞を抽出した。元表は20,824行で、ここではraw readからQCを再実行せず、加工済みの判定を使う。17細胞型、三つの生物学的反復が記録されていた。

同じCell-IDでまとめると、7,715塊のうち5,788は回収細胞が一つだけだった。複数細胞の塊は1,927で、そこに含まれる細胞は5,731。原著の公開ノートは、この複数細胞の塊に含まれる細胞数をFrequencyの分母にしている。全11,519細胞をそのまま分母にした値とは違う。(3)

表1.反復別の細胞数と複数細胞塊。

Replicate QC-passing cells Cells recovered in multicell clumps Multicell clumps
exp1 1,496 747 255
exp2 6,452 3,541 1,147
exp3 3,571 1,443 525
Total 11,519 5,731 1,927

細胞数や塊の数を、生物学的反復の数として数えていない。今回の生物学的反復数は三つで、細胞数や塊数とは別に記録する。

また、T細胞の7細胞は全て一つだけ回収された塊にあった。主解析の母数にはT細胞がないため、Tを含むFrequencyは定義できない。これは「T細胞は通信しない」という結果ではない。原著表でも該当する16異型ペアは欠測であり、0へ置き換えていない。

共存する塊の数と塊の中の細胞ペア数は違う

異なる細胞型A、Bの共存を、三つの数え方で記録した。

  • 共存塊数:少なくとも一つのAと一つのBを含む塊を1と数える。
  • 細胞ペア数:各塊のA細胞数とB細胞数の積を足す。
  • 重み付き和:その積を、塊の中の全細胞ペア数で割ってから足す。

例えばAが2細胞、Bが1細胞、別の型が1細胞ある塊なら、共存塊数は1、A–Bの細胞ペア数は2、重みは\(2/\binom{4}{2}=1/3\)となる。大きな塊を、その中の全ペアがそれぞれ独立の接触を示す標本だと扱わない。

原著の異型ペアFrequencyに対応する値は

\[ W_{AB}=\sum_i\frac{n_{iA}n_{iB}}{\binom{n_i}{2}},\qquad F_{AB}=\frac{100W_{AB}}{\sqrt{N_A N_B}} \]

で計算した。\(N_A,N_B\)は、対象とした複数細胞塊の中の各型の総細胞数である。同じCell-IDが実験を跨いで衝突していないことも確認し、実験と塊を対応させた。

原著に対応する136異型ペアのうち、定義できる120ペアは公開表と一致した。最大絶対差は約\(7.1\times10^{-15}\)で、浮動小数点計算の範囲内だった。これは頻度の計算の再現であり、測定やRNA解析全体の追試ではない。

希少なペアでは比率の前に実数を見る

原著で取り上げられたPST–B細胞と、集合管のCD-PC–CD-ICを例にした。PSTは近位直尿細管、CD-PCは集合管主細胞、CD-ICは集合管介在細胞の注釈を表す。

共存塊数と塊内の細胞ペア数を反復ごとに再集計

図1. 共存塊数と細胞ペア数を分けて表示する。下のA/Bは見出しの左側/右側の細胞型に対応し、数は複数細胞塊に回収された細胞数を示す。細胞ペア数は直接接触の実測数ではない。

PST–Bは合計6塊、13細胞ペアだった。内訳はexp1で0塊、exp2で5塊、exp3で1塊。主解析に入るB細胞は合計8細胞で、反復別には0・7・1細胞。exp1のFrequencyは未定義になる。ゼロの共存を、十分にB細胞を観測したうえでの陰性結果とは扱えない。原著はPST–Bの近接を免疫蛍光・asmFISHでも検証している。本記事ではその画像を再評価せず、Cell-ID集計の母数を点検する。

さらに、PST–Bの重み付き和3.171のうち、3.0、約94.6%は2細胞塊の3例から来ていた。6塊という実数と13細胞ペアという数から受ける印象が、重み付き頻度の寄与とは違う。

CD-PC–CD-ICは合計103塊、161細胞ペアで、反復別には5・57・41塊だった。原著の例を読んでから選んだ二つのケースであり、新しい相互作用の発見や、全ネットワークを探索して多重性を調整した検定ではない。

何に比べて「多い」と言うか

型A、Bが多ければ、同じ塊に入る機会も増える。そこで、回収した塊の大きさと各型の細胞数を固定し、細胞型ラベルだけを一様に割り付け直す帰無を置いた。

この帰無で細胞数が\(N\)、複数細胞塊の数が\(G\)なら、異型ペアの重み付き和の厳密期待は

\[ E[W_{AB}]=G\frac{2N_A N_B}{N(N-1)} \]

になる。各塊の重みを全ペア数で割るため、個々の塊サイズがこの期待式から打ち消される。ただし、塊サイズの分布は分散や実際の共存の仕方には影響する。

全反復を混ぜる場合と、反復内だけで割り付け直す場合を比較した。後者では各反復の厳密期待を足し、観測された重み付き和を割る。

表2.頻度とランダム割付に対する共存濃縮。

Pair Recalculated published Frequency Observed/expected, pooled Observed/expected, within-replicate reassignment
PST–B 3.571 3.43 3.31
CD-PC–CD-IC 12.128 1.84 1.77

このデータでは、反復を跨いで混ぜるかどうかによる違いは比較的小さかった。一方、希少ペアの反復別の比は安定していない。PST–Bはexp2で2.31、exp3では53.56だった。exp3はB細胞1個、共存1塊という小さな観測で、期待値が約0.0187と小さいため大きな比が出る。大きな比率を、多数の例で確かめた強い通信と読み替えない。

1,999回の反復内ラベル置換も行い、乱数による平均と厳密期待を照合できる表を配布した。p値は同順位を含め、分子と分母に1を加えた有限回の計算なので、最小でも0.0005となる。1,999は置換回数で、生物学的な反復数を増やすものではない。本記事の置換範囲とp値の定義は原著と同一ではなく、原著p値の再現とはしていない。

この帰無は、解剖学的な領域、細胞型ごとの解離・回収のしやすさ、QCの偏りを保存しない。したがって、比はこのランダム割付に対する共存濃縮であり、接触や機能の原因を特定した値ではない。

一つだけ回収された細胞を含めると問いが変わる

対象の塊サイズと母数を変えた場合の共存濃縮

図2. 各部分集合の細胞数、細胞型数、塊数で期待を再計算した観測/期待比。点は信頼区間を伴う生物学的効果の推定値ではない。対象集団が違うため、同じ効果の頑健性を単純に比較した図でもない。

反復内の帰無に対するPST–Bの比は、2細胞塊だけで3.27、2~5細胞で3.90、主解析の2~20細胞で3.31だった。一つだけ回収された細胞も母数と再割付対象に含めると2.11になる。CD-PC–CD-ICはそれぞれ1.17、1.43、1.77、1.13だった。

これは、好都合な母数を選べばよいという結果ではない。複数細胞として回収された集団内の共存を問うのか、QCを通過した全細胞を対象に共存を問うのかを先に決め、回収率の違いも記録する必要がある。原著の再計算には前者を使い、後者は別の感度解析として示した。

一つの反復を外した表も配布した。PST–Bでは、exp2を外すと共存1塊とB細胞1個だけになり、反復内の観測/期待比は53.56となる。大きな比が残ったことを、再現性が高いという判断には使えない。まず、どの反復に何件あるかを見る。

考察

CCI-seqは、発現だけでは分からなかった同じ塊の由来を記録する。ただし、共存濃縮、リガンド・受容体の発現、画像上の隣接、摂動で変わる機能は、それぞれ別の証拠である。

今回の再集計では、公開された腎臓の近接情報の頻度を追跡し、希少ペアの母数と反復への依存を確認した。この集計だけで分子の機能まで特定したわけではない。原著の画像検証と、ここで再計算した共存頻度は、同じ検証結果には数えていない。

データとコードの公開

解析コード・細胞注釈・参照頻度・独自図をダウンロード。Pythonとnumpyで集計・置換・11件のテストを実行でき、図の再描画にはmatplotlibが必要だ。公開ZIPから必要な注釈と数値表だけを取得し、CRCとSHA-256で照合する手順も収録した。原著図、第三者ノート、生read、RNA発現行列は配布していない。

固定版、取得メンバー、入力のハッシュはinput-provenance.json、母数と計算手順はREPRODUCE.mdに記録した。本解析は原著の例を見た後の探索的な監査であり、原著の実験、画像、QC全体、発現由来の推論、因果的な通信、ヒト患者や疾患への一般化は検証していない。

参照

  1. Tang L, Tian K, Fu X, Xu Y, Wu J, Zhang J, et al. Resolving cell–cell interaction networks and their molecular logic in complex tissues. Nature Methods. 2026;23(10):2042–2053. doi:10.1038/s41592-026-03237-0.
  2. Tian K, Tang L. Code for: Resolving cell-cell interaction networks and their molecular logic in complex tissues [Computational notebook and processed data]. Version v5. Zenodo; 2026 Apr 14. doi:10.5281/zenodo.19544434.
  3. Zhang laboratory. CCI-seq: Figure 2 interaction analysis [Notebook]. Commit 327725c97d82e8918d880e439d57e4133cfa93d4. GitHub notebook.

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