カピバセルチブは、同じ週間投与量なら休薬の置き方も同じか:公開PopPKモデルで比べる
週間投与量を揃えて休薬配置を比較する。週間AUC・ピーク・最低濃度と、基準濃度によって順位が変わる低濃度時間から、PKだけで選べない点と次に必要な観測を整理する。
Summary in English
Capivasertib rest-day placement at the same weekly dose: a public PopPK simulation
Three equal-dose weekly schedules are compared with an independent implementation of published PK equations. Weekly AUC is nearly unchanged, while minima and cutoff-dependent low-concentration times differ. Conditional sensitivity simulations do not establish clinical equivalence or predict efficacy, toxicity, or recovery.
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文献・公開資料確認日:2026年10月12日。本稿の図表は、公開モデルの式と推定済みパラメータを使って新たに計算したものである。患者別データの再推定や、別の投与条件の臨床的な検証ではない。
カピバセルチブはAKTを阻害する経口薬である。HR陽性・HER2陰性進行乳癌を対象とした第III相CAPItello-291では、フルベストラントと併用し、400 mgを1日2回、4日連続で投与して3日休薬した[1,2]。毎日同じ量を飲み続ける薬とは違い、投与日の濃度だけでなく、休薬中にどこまで下がるかも考える必要がある。
では、1週間に飲む量を変えずに、4日間を分散したらどうなるだろうか。週間AUCが同じなら、別の配置でも同じと考えてよいのか。
公開PopPKモデルで比較すると、週間AUCと最大濃度はほぼ変わらず、最低濃度は変わった。しかし、低濃度の時間が長いか短いかは、どの濃度を基準にするかで順位が逆転した。週間総量も、最低濃度も、それだけでは休薬配置を選ぶ基準にならない。 今回はこの違いを数値で整理する。
比べるのは投与量ではなく、投与日の配置
問い(QOI)は、同じ週間投与量の3条件が、週間AUC、最大・最低濃度、低濃度の時間で区別できるか。その違いはモデルの不確実性を考慮しても残るか、である。
使用目的(COU)は、間欠投与を比較する研究で候補条件とPK・PDの観測期間を検討すること。治療条件の変更、安全性・有効性の確率予測には使わない。既存条件を置き換える提案ではない。
1週間をDay 1〜7とし、投与日には開始時点と12時間後に400 mgずつ投与する。3条件とも8回、計3200 mg/週である。
| 配置 | 1週間の投与日 | 投与間隔の最大値 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 4日連続+3日休薬 | Day 1, 2, 3, 4 | 84 h | 基準条件 |
| 2日投与を2回 | Day 1, 2, 5, 6 | 60 h | 仮想の配置変更 |
| 隔日を中心に4日投与 | Day 1, 3, 5, 7 | 36 h | 仮想の配置変更 |
「隔日を中心に」は完全な48時間周期ではない。週の境界ではDay 7から翌週Day 1まで連続した投与日になる。最大投与間隔は、最後の服薬から次の服薬までの時間であり、休薬日数に24 hを掛けた値とは異なる。たとえば基準条件ではDay 4の夕方からDay 8の朝まで84 hある。
主な比較期間は、開始後の第4週、504〜672 hとする。最初の週と第8週も確認した。投与前の体内量はゼロとし、欠薬、追加の休薬、併用薬の変化は入れていない。
公開モデルで表せる変化と、表せない回復
2024年の原著[1]は、3つの分布区画と、並列の一次・ゼロ次吸収を使っている。2025年の解析[2]では、第III相試験などを追加して同じ構造を更新している。主解析には2025年のTable 2を使い、2024年の推定値を感度分析に使った。
代表条件は67 kg、57歳、錠剤、厳密な一晩絶食ではない条件、パクリタキセルなしで固定する。ここでの67 kgはモデル式の体重基準であり、2025年データの体重中央値65 kgとは異なる。フルベストラントのPKや薬効は計算していない。
| パラメータ | 使用値 | 単位・役割 |
|---|---|---|
| 初期CL/F | 59.6 | L/h |
| 中心区画V/F | 49.0 | L |
| 末梢区画V/F | 113, 103 | L |
| 区画間Q/F | 2.52, 23.4 | L/h |
| 一次吸収速度 | 0.441 | h⁻¹ |
| 一次吸収の割合に関するlogit値 | 1.6 | 無次元 |
| 一次吸収のラグ | 0.287 | h |
| ゼロ次吸収の持続時間 | 45.0 | h |
| クリアランス変化の係数 \(I_{\max}\) | −1.87 | 無次元・対数尺度 |
| 時間変化の半減点 \(T_{50}\) | 126 | h |
| 投与量による係数 | −0.00213 | mg⁻¹ |
すべて見かけのパラメータであり、絶対的なバイオアベイラビリティを別に掛けない。一次吸収の割合は \(f_1=\operatorname{expit}(1.6)\)、残りをゼロ次吸収とする。一次吸収はラグの後に始まり、ゼロ次吸収は投与時点から45 h継続する。ゼロ次吸収の入力は服薬ごとに重なる。45 hはこのモデルの経験的な入力持続時間であり、食物や錠剤がその時間胃に留まることを示す値ではない。
中心・末梢区画の量を \(A_c,A_{p1},A_{p2}\)、一次吸収の量を \(A_g\) とすると、見かけの体積を使った濃度 \(C=A_c/V_c\) について、
\[ \frac{dA_g}{dt}=-k_a A_g, \]
\[ \frac{dA_c}{dt}=k_a A_g+R_0(t)-CL(t)\frac{A_c}{V_c} -Q_1\left(\frac{A_c}{V_c}-\frac{A_{p1}}{V_{p1}}\right) -Q_2\left(\frac{A_c}{V_c}-\frac{A_{p2}}{V_{p2}}\right), \]
\[ \frac{dA_{pj}}{dt}=Q_j\left(\frac{A_c}{V_c}-\frac{A_{pj}}{V_{pj}}\right),\quad j=1,2. \]
表記を簡潔にするため式中の \(/F\) は省略している。モデルのクリアランスは、
\[ CL(t)=CL_0\left[1-\exp(I_{\max,i}) \frac{t^5}{T_{50}^5+t^5}\right], \]
\[ I_{\max,i}=I_{\max}\{1+(D-480)\theta_D\}\exp(\eta_I) \]
と変わる。予定された1回量 \(D\) は全条件で400 mgのままである。指数は \(I_{\max,i}\) だけに掛かり、時間の項全体を指数の中へ入れない。
重要なのは、\(t\) が治療開始からの経過時間であることだ。休薬ごとにリセットする式でも、濃度が下がるとクリアランスが元へ戻る式でもない。 酵素の回復、血糖の回復、腫瘍内のAKT阻害の持続などは、このPKモデルには入っていない。
公開式とTable 2を独立にPythonへ実装した。原著のNONMEM実行との完全な同値性や、患者ごとの予測を検証したものではない。投与・吸収終了の時刻で計算を分割し、質量収支、刻み幅を半分にした計算、別の適応的ソルバー、一定CLでの週間量/CLの関係を確認した。
同じ週間AUCでも、濃度の形は違う

図1. 代表条件の第4週。上段が血漿濃度、下段が服薬時刻で、すべて400 mg×8回/週。点線の基準濃度は、4日連続条件の代表ピークの10%に固定した診断用の値である。薬効・毒性・回復の閾値ではない。
| 配置 | 週間AUC(ng·h/mL) | 週間最大濃度(ng/mL) | 週間最低濃度(ng/mL) | 基準濃度未満の時間(h) |
|---|---|---|---|---|
| 4日連続+3日休薬 | 60,463 | 1,382 | 6.47 | 65.7 |
| 2日投与を2回 | 60,463 | 1,372 | 10.78 | 59.9 |
| 隔日を中心に4日投与 | 60,463 | 1,371 | 47.87 | 60.7 |
数値は analysis/run_analysis.py が出力した outputs/tables/typical.csv による。基準濃度は約138.2 ng/mLである。最低濃度は週内の最小値であり、3条件共通の暦時刻のトラフではない。
週間AUCは、どの条件も約6.05万 ng·h/mLになった。最大濃度の差も小さい。それに対して最低濃度は、連続投与から分散投与へ変えると上がった。だが、ピークの10%未満にいる時間の短縮は、最低濃度の倍率から想像するほど大きくない。
これはAUCの計算が配置を無視しているためではない。一定CLの線形モデルが周期状態に達し、週の最初と最後で体内量が同じなら、質量収支から
\[ \mathrm{AUC}_{week}=\frac{\mathrm{Dose}_{week}}{CL} \]
となる。したがって、同じ週間量で週間AUCが揃うこと自体は、モデル構造から予想できる。今回の第4週はCLの時間変化が小さく、その関係に近い。これは別配置の臨床的な同等性を証明する結果ではない。
また、一次吸収だけでなく45 h続くゼロ次入力を含むため、休薬日になってもモデルの吸収入力が直ちにゼロになるとは限らない。「服薬しない時間」と「モデル上の薬物入力がない時間」を同じものとして扱わない。
個体差を入れても、AUCと最低濃度は別の指標
同じ仮想個体に3条件を与えるpaired比較を行った。人数は256、seedは20261012で固定した。
2025年Table 2のCV表記から、CL、中心体積、\(I_{\max}\) の変動だけを入れた。CVはそれぞれ38.2%、103%、95.3%とし、\(\omega=\sqrt{\log(1+CV^2)}\) で対数標準偏差に変換した。3つの乱数は独立と仮定する。
吸収ラグ・吸収割合の個体差、相関、体重・年齢の分布、残差誤差、固定効果の推定不確実性は含めない。原著の臨床集団を再構成したシミュレーションではなく、選んだ3パラメータへの条件付き感度分析である。CVを対数標準偏差そのものとして読む場合も別に計算した。

図2. 4日連続条件に対する同一仮想個体内の比較。AUCは差の百分率、最大・最低濃度は比で示す。点が中央値、線が5–95百分位、×が代表条件。パネルごとに横軸の単位・範囲が違う。線は信頼区間ではない。AUCのごく小さい差を、臨床的な差と解釈しない。
| 配置 | 週間AUC比 | 最大濃度比 | 最低濃度比 | 低濃度時間差(h) |
|---|---|---|---|---|
| 2日投与を2回 | 1.00001 [1.00000, 1.00004] | 0.99 [0.97, 1.00] | 1.66 [1.63, 1.92] | -7.6 [-22.7, 3.7] |
| 隔日を中心に4日投与 | 1.00001 [1.00000, 1.00005] | 0.99 [0.96, 1.00] | 7.42 [4.56, 11.88] | -6.1 [-42.4, 6.8] |
角括弧は条件付き仮想分布の5–95百分位。低濃度時間だけは比ではなく、基準条件との差である。出力は outputs/tables/paired.csv。
AUC比はほぼ1に集まる一方、最低濃度比は条件により大きく違う。ただし、低濃度時間差の範囲にはゼロをまたぐものがある。最低濃度を上げたから、低濃度の時間がすべての仮想個体で短くなる、とも言えない。
「低濃度」は、どの濃度を基準にするか
138.2 ng/mLには、公開資料で検証された薬効・安全性上の境界という意味はない。任意の基準1つで結論を出さないため、基準ピークの5〜50%へ変更した。
| 基準ピークに対する割合 | 濃度(ng/mL) | 4日連続+3日休薬 | 2日投与を2回 | 隔日を中心に4日投与 |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 69.1 | 50.9 | 30.1 | 9.5 |
| 10% | 138.2 | 65.7 | 59.9 | 60.7 |
| 20% | 276.3 | 95.4 | 99.0 | 100.8 |
各配置の列は、第4週に基準濃度を下回る時間(h)。出力は outputs/tables/cutoffs.csv。
5%を基準にすると、分散投与で低濃度の時間は大きく短くなる。しかし20%では、4日連続条件の方が基準未満の時間が短い。高い濃度が続く期間をまとまって作る条件と、最低濃度を持ち上げる条件とでは、濃度分布の形が違うからだ。
この順位反転は、20%が正しい基準であることを意味しない。薬理学的な境界が分からなければ、「低濃度の時間を短くした条件が良い」とは評価できない、という結果である。

図3. 左は任意の濃度基準による低濃度時間の変化。右は基準濃度を代表ピークの10%へ固定した条件付き仮想個体256人のpaired時間差。点が中央値、線が5–95百分位、×が代表条件。橙が2日投与を2回、緑が隔日を中心に4日投与。線は信頼区間ではない。
別に、13パラメータを1つずつ公表bootstrap区間の下限・上限へ変え、26条件の曝露比の範囲を確認した。
| 配置 | 週間AUC比の範囲 | 最大濃度比の範囲 | 最低濃度比の範囲 |
|---|---|---|---|
| 2日投与を2回 | 1.000–1.000 | 0.990–0.995 | 1.439–1.943 |
| 隔日を中心に4日投与 | 1.000–1.000 | 0.989–0.994 | 5.577–9.205 |
この感度分析でも、週間AUCの差は小さい。最低濃度の差は残るが、倍率自体はパラメータに依存する。原著の推定値間の共分散は使っていないため、この範囲を95%信頼区間とは呼ばない。
2024年の推定値、CLを漸近値に固定した条件、CLの変化を止めた診断用条件、絶食・剤形によるラグ変更、第8週、CVの別解釈も計算した(outputs/tables/scenarios.csv)。AUCが近く、最低濃度が異なるという関係は維持された。一方、低濃度時間の差はモデル条件でも変わる。原著の時間依存CL式には休薬後の回復がないため、この検討で回復の有無を評価できたことにはならない。
既存の曝露–反応解析は、配置変更まで保証しない
2025年の単剤の曝露–安全性解析[3]では、評価した多くの有害事象について週間曝露が関係し、血糖上昇については投与間隔内の曝露が関係した。同じ曝露指標がすべての有害事象を説明したわけではない。480 mgを4日投与する条件と、320 mgを毎日投与する条件の比較は、週間投与量自体も異なるため、今回の同量比較と混同しない。
フルベストラント併用の2025年解析[2]では、有効性との曝露関係は検出されず、安全性では減量・中断につながる有害事象、Grade 3以上の有害事象、Grade 2以上の下痢について関係が検出された。しかし有効性の関係が検出されなかったことは、別の投与条件でも有効性が維持されることを示さない。
さらに、併用解析の主要曝露指標は第2週最終投与日の252〜264 hの12時間区間で計算されている。今回の週間AUCや週内最低濃度とは窓が異なる。原著の回帰関係へ週間AUCをそのまま代入したり、未評価の配置へ安全性の確率を外挿したりはしない。
実装の規模の点検として、基準条件の同じ12 h区間も計算した。代表条件のAUCは約7481 ng·h/mL、最大濃度は約1378 ng/mLだった。原著が報告する中央値は7650 ng·h/mLと1460 ng/mLである[2]。共変量を固定した代表条件と患者集団の中央値の比較であり、差をパラメータ調整で消していない。観測データに対する再検証や、モデルの完全再現を示す比較ではない。
次の比較で必要なのは、休薬中の観測
今回のPKだけで、3条件のどれが優れるかは選べない。それでも、比較の焦点は絞れる。
| 比較したいこと | PK計算で分かったこと | 次に必要な観測 |
|---|---|---|
| 総曝露が同じか | 第4週週間AUCは近い | 初週・投与後半を含む実測PK |
| ピークを下げられるか | 今回の配置変更では差が小さい | 投与日のピーク付近と投与前濃度 |
| 長い薬物曝露の谷をなくせるか | 最低濃度と低濃度時間は別の指標 | 最終服薬から再開までのPK、対応するPD |
| 休薬が毒性の回復に寄与するか | このモデルでは計算していない | 血糖などの時間経過、症状発現・回復時刻 |
| 腫瘍の標的阻害を維持できるか | 血漿濃度だけでは判断できない | 腫瘍に関係するPDと有効性の比較 |
たとえば、投与日のピーク測定だけでは、2日投与を2回と4日連続を区別する情報が乏しい可能性がある。配置の差を調べたいなら、最後の服薬から再開までの期間を観測対象に含める。ただし、今回から最適採血時刻や必要人数を求めたわけではない。
同量で週間AUCを保つ設計は、週間曝露が関係する有害事象を減らす根拠を与えない。ピークもほぼ同じなら、配置変更が安全性を改善するという根拠はさらに不足する。他方、低濃度期間を短くすることが、必要な回復の時間を減らしてしまう可能性も、このモデルでは除外できない。
まず濃度の形を区別し、次に何のPDや安全性の変化と対応させるかを決める。 週間量の一致をレジメンの同等性に置き換えず、最低濃度の上昇を改善と呼ばないことが、この比較の結論である。
限界と再実行
個人別のPK・PD・有害事象の時間データを使っていない。式と公表推定値による独立実装であり、追加の配置は観測データで検証していない。仮想個体の分布は限定したパラメータへの感度分析であり、臨床集団の予測分布ではない。併用薬、投与中断、腫瘍内濃度、症状の回復、服薬の実行しやすさも評価していない。
すべての数値表と図は analysis/run_analysis.py から生成した。コード、パッケージの版、乱数seed、検証結果を配布資料へ含める。原著の図・患者データ・補足ファイルを転載せず、図は本解析で新たに作成した。
参考文献
- Fernandez-Teruel C, et al. Population Pharmacokinetics of Capivasertib in Patients with Advanced or Metastatic Solid Tumours. Clinical Pharmacokinetics. 2024;63:1191–1204. doi:10.1007/s40262-024-01407-x。公開本文。
- Fernandez Teruel C, et al. Population Pharmacokinetics and Exposure–Response Analyses for Capivasertib in Combination With Fulvestrant in Patients With Breast Cancer. Clinical and Translational Science. 2025;18:e70286. doi:10.1111/cts.70286。公開本文・補足資料。
- Fernandez-Teruel C, et al. An exposure–safety analysis to support the dosage of the novel AKT inhibitor capivasertib. Cancer Chemotherapy and Pharmacology. 2025. doi:10.1007/s00280-025-04775-8。公開本文。
引用
Kumakura, D. (2026). カピバセルチブは、同じ週間投与量なら休薬の置き方も同じか:公開PopPKモデルで比べる. daikikumakura.github.io. https://daikikumakura.github.io/writing/capivasertib-rest-schedule.html