腫瘍の合計が減っても増える病変はある。公開CTデータを調べる

Daiki Kumakura · 2026-10-27 · Technical note · 1.0

公開CTデータの276患者・2,425病変で、患者内の病変変化と集約の限界を調べた。合計体積の減少と一部病変の増加が併存する頻度、除外条件と臓器差の不確実性を示す。薬剤別の因果薬効は評価しない。

Summary in English

When shrinking totals hide growing lesions: an audit of public CT data

Two-timepoint lesion volumes from 276 patients reveal heterogeneous changes hidden by aggregation. This analysis examines measurement selection and within-patient organ contrasts, not causal drug effects or RECIST progression.

The full article is in Japanese.

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腫瘍量を患者ごとに足し合わせると、比較しやすい指標になる。しかし、合計の減少と、すべての病変の減少は同じではない。大きな病変が縮小すれば、小さな病変の増加が合計に現れないことがある。

公開された転移性メラノーマの2時点CTデータで、この性質を調べた。主解析に使えた276患者・2,425病変では、対応する既存病変の合計体積が減っていても、少なくとも1病変が20%を超えて増加する患者が58人、21.0%だった。95%患者ブートストラップ区間は16.3–25.7%だった。

これは進行と判定された患者の割合ではない。対象は、同じ病変として対応付けでき、両時点の体積が正で、撮影間隔が正の既存病変だけである。新しい病変、消えた病変、合流した病変は、この合計に含めていない。

問いとデータ

QOIは「患者内の合計体積の変化が、逆方向に動く病変をどの程度隠すか」。COUは、将来の薬効モデリングで残すべき病変情報と、集約指標の限界を考える研究用途とした。

Longitudinal-CT v3は、300患者のベースライン・フォローアップ画像と、病変の臓器、体積、対応関係を公開している。本解析では画像から再分割せず、提供された病変CSVと患者背景CSVを使用した。薬剤名、開始日、用量、投与変更は含まれていない。Data provider、Gatidis et al., Scientific Data, 2026

したがって、臓器別の薬剤感受性を因果的に推定した解析でも、PK/PD推定でもない。元の企画にあった縦断径の薬効モデルから、公開データの粒度に合う2時点体積の評価へ、数値結果を見る前に範囲を限定した。事前登録はしていない。

まず病変を足せる条件を確認する

病変CSVの4,638行は、4,638個の独立患者でも、すべて同じ種類の対応病変でもない。

対応の種類 行数 主解析での扱い
既存の対応病変(UNCHANGED) 2,506 対応の確実性・体積・時間を確認して採用
消失 1,407 別に計数し、正の対数比に押し込まない
新出 559 ベースライン体積がないため別に計数
合流 166 二重計数を避け、主解析から除外

UNCHANGEDは形が変わらないという意味ではなく、病変対応のトポロジー分類である。リンク不明は135行、リンク情報欠測は4行だった。患者背景と対応できないIDが1患者、撮影間隔0日が5患者あり、推測でIDや日付を補正しなかった。これらの患者に属する155行は、時間を伴う変化の主解析から除外した。除外理由は重なるため、各件数を単純に足し合わせない。

最終的に2,425病変・276患者が主解析に残り、247患者には複数病変、175患者には複数臓器の病変があった。提供された背景表の撮影間隔は中央値97日、最大1,036日であり、全例が同じ治療期間を表すわけではない。

合計体積と最も増えた病変を並べる

患者 \(i\) の採用病変集合を \(J_i\) とし、合計の変化を

\[ R_i=\log\left(\frac{\sum_{j\in J_i}V_{ij,FU}}{\sum_{j\in J_i}V_{ij,BL}}\right),\qquad M_i=\max_{j\in J_i}\log(V_{ij,FU}/V_{ij,BL}) \]

で表した。\(R_i<0\)でも、\(M_i>0\)なら同じ患者内で変化の向きが揃っていない。

合計体積の変化と最大病変変化

図1:1点は1患者。既存の確実な対応病変だけを使用した。縦軸は最大の病変体積比、横軸は採用病変の合計体積比の対数。左側で破線より上の点は、合計が減る一方で少なくとも1病変が20%超増加している。

病変増加の探索用閾値 該当患者/主解析患者 割合 95%患者ブートストラップ区間
0%超 77/276 27.9% 22.8–33.3%
20%超 58/276 21.0% 16.3–25.7%
50%超 41/276 14.9% 10.9–19.2%

各行の分母は合計が減った患者だけではなく、主解析の276患者すべてである。合計が減った患者は172人だった。閾値は測定の小さな差への感度を確認するための探索設定で、臨床的な進行閾値ではない。患者を単位に2,000回再標本化し、病変を独立患者として扱わなかった。

どの病変を残すかで頻度は変わる

20%超の増加を使うと、結果は次のようになった。

病変の選び方 病変数 患者数 該当患者 割合
主解析 2,425 276 58 21.0%
target_lesionのみ 443 243 14 5.8%
ベースライン体積1,000 mm³以上 894 229 23 10.0%
撮影間隔120日以下 1,971 214 45 21.0%

target_lesionだけに絞った場合の低い頻度を、患者が良くなった証拠とは読めない。調べる病変が少なくなれば、最大の増加を見つける機会も減る。小病変の除外では測定の不安定さと、実際の不均一性の両方を取り除く可能性がある。分母と病変集合が変わる比較であり、同じ集団への無作為介入ではない。

臓器差は患者内で見る

病変数が多い患者に結果を支配させないため、病変対数体積比を患者×臓器ごとに平均し、肺を参照に患者固定効果とベースライン体積を含む線形モデルを使った。対象4臓器のうち2臓器以上を持つ137患者、331患者×臓器行が対象である。

\[ \bar y_{io}=\alpha_i+\beta_o+\gamma\overline{\log V_{BL}}_{io}+\varepsilon_{io} \]

患者内で一定の撮影間隔は患者固定効果に吸収されるため、独立の撮影間隔係数を追加していない。患者ごとの時間差を無視して臓器比較をしたという意味ではないが、臓器ごとに異なる時間依存性や治療履歴は識別できない。

患者内の臓器差

図2:患者内の平均病変対数体積比の差。区間は患者全体を1,000回再標本化した95%区間。薬剤別の因果効果ではなく、未調整の病変背景や選択の影響が残る。

肝臓と肺の差は0.523(95%区間0.094–0.982)だった。リンパ節は0.255(−0.059–0.581)、軟部組織・皮膚は0.314(−0.008–0.623)で、不確実性が大きかった。複数の臓器を探索しており、多重比較補正はしていない。患者の約5分の1ずつを除いた5回の感度解析では、肝臓の点推定は0.324–0.716へ動き、一部の区間は0を含んだ。臓器の確定的な感受性ランキングには使えない。

合計縮小を治療成功率とは呼べない

対応する既存病変の合計が減っても、病変ごとの変化は揃わなかった。ただし、今回の21.0%は治療失敗率ではない。消失・新出を含む全腫瘍負荷を再構成しておらず、体積を径に換算しても、標的・非標的病変や新病変を扱うRECIST判定にはならない。RECIST 1.1

薬剤や用量、治療開始日、局所治療、転帰、読影誤差も不足している。患者ブートストラップはこれらの不足を補わず、2時点から縮小と再増大の速度を分けることもできない。より詳細な治験データに基づく臓器別縦断モデルの結論を、この解析へ直接移すことはできない。Zhou et al., 2023

再実行

analysis/01_extract_metadata.pyが提供ZIPからCSVだけを取得し、展開サイズ・CRC32を検証する。analysis/02_analyze.pyが表と図を再生成する。原本SHA256、患者×病変キー、結合の行数、モデルの行列ランクを検査した。実行済Notebookはreports/analysis.ipynb、詳細な結果はoutputs/tables/に保存した。

データのCC BY-NC条件を保持し、原画像や患者別CSVを記事の配布物へ含めない。本稿の図表は提供された数値から作成した独自の集約結果である。

解析関数と検査コード

解析関数と単体検査のZIPを配布する。原データや解析全体の再実行資料は含まない。検査に使う構成例を、臨床データの検証とは扱わない。

自動検出トピック: Cluster 4: evaluation · cell · unobserved

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Kumakura, D. (2026). When shrinking totals hide growing lesions: an audit of public CT data [Article in Japanese]. daikikumakura.github.io. https://daikikumakura.github.io/writing/organ-lesion-response.html